「すごいね」のその先へ:子どもの自己肯定感を育む、評価を手放した対話のヒント
日々の子育ての中で、お子さまの成長や努力を見たとき、「よくできたね」「すごいね」といった言葉で褒めることは、多くの親御さんにとって自然な行為かもしれません。お子さまの喜びの表情を見ると、私たちも満たされるものです。しかし、「褒め続けることで、子どもは評価に依存してしまうのではないか」「褒め方が分からない」といった戸惑いを感じることもあるのではないでしょうか。
この問いに唯一の「正解」はありません。なぜなら、子育てには多様な価値観が存在し、それぞれのご家庭にとって最適なアプローチが異なるからです。この視点に立ち、「対話で育む未来」では、お子さまの自己肯定感を育むための、評価とは異なる対話の可能性についてお伝えいたします。お子さまの内なる力を引き出し、親子の信頼関係を深めるためのヒントとして、お役立ていただければ幸いです。
評価を手放す対話とは何か
「評価を手放す対話」とは、お子さまの行動や成果を「良い」「悪い」といった価値判断で捉えるのではなく、ありのままを観察し、そのプロセスや感情に寄り添い、言葉にすることを目指すコミュニケーションの形です。
従来の「褒める」行為は、多くの場合、親の期待や社会的な規範に基づいた評価を含んでいます。「すごいね」「えらいね」といった言葉は、一時的な喜びをもたらす一方で、お子さまが「親の期待に応えなければならない」「失敗してはいけない」と感じるプレッシャーになることも考えられます。
評価を手放す対話では、お子さまが自分自身の内発的な動機に基づき、自ら考え、行動し、達成する喜びを感じられるようサポートすることに焦点を当てます。これにより、外部からの評価に左右されない、確固たる自己肯定感を育む土台が築かれることを目指します。
自己肯定感を育む対話のヒントと実践例
お子さまの内なる力を育むためには、具体的な状況でどのように対話していくかが重要になります。ここでは、いくつかの実践的なヒントと事例をご紹介します。これらはあくまで「一つの可能性」であり、お子さまの個性や状況に合わせて調整していただくことが大切です。
1. 行動やプロセスを具体的に描写する
お子さまが何かを成し遂げた時、結果だけでなく、そこに至るまでの行動や努力、プロセスに焦点を当てて具体的に言葉にしてみましょう。
- 実践例:積み木で塔を完成させたお子さまに対して
- 「たくさんの積み木を、一つひとつ丁寧に重ねて、高い塔ができたね。どうやってバランスをとったのか、工夫しているように見えたよ。」
- (「すごいね」だけでなく、お子さまがどのような行動をしたか、どのような努力をしたかを具体的に描写することで、お子さまは自身の行動を客観的に認識し、達成感を内面化しやすくなります。)
2. 感情や意図に寄り添う
お子さまが何かに挑戦している時や、感情を表現している時、その感情や行動の裏にある意図に共感し、言葉で受け止める姿勢が大切です。
- 実践例:絵を描いている途中でうまくいかず、悔しそうにしているお子さまに対して
- 「描きたい色がなかなか出なくて、もどかしい気持ちになっているように見えるよ。でも、何度も色を混ぜて、工夫しようとしているんだね。」
- (感情を否定せず、「もどかしい気持ち」と親が表現することで、お子さまは自分の感情を受け止めてもらえたと感じ、安心感を得られます。また、その後の努力を認める言葉が、再挑戦への意欲につながります。)
3. 興味や好奇心を探る問いかけをする
お子さまの作品や行動について、親の感想を述べるのではなく、お子さま自身がどう感じ、どう考えたのかを尋ねることで、内省を促し、自己認識を深める機会を提供します。
- 実践例:動物の絵を描き終えたお子さまに対して
- 「この絵の動物は、どんな気持ちでいるように見えるかな?」「どの部分を描くのが一番楽しかった?」
- (「上手に描けたね」といった評価ではなく、お子さま自身の内面や体験に焦点を当てた問いかけは、お子さまが自身の作品や行動について深く考えるきっかけを与えます。親は「良い聞き手」として、お子さまの言葉を丁寧に受け止めましょう。)
4. 選択肢を示し、自己決定を尊重する
お子さまが自己肯定感を育むためには、自分で選び、自分で決める経験も重要です。日常のささいな場面で、選択肢を与え、その決定を尊重する対話を試してみてはいかがでしょうか。
- 実践例:公園に行く前、どの遊具で遊びたいか迷っているお子さまに対して
- 「今日はブランコと滑り台、どちらから先に遊びたいかな?」「もし決められなかったら、どうしたら楽しいと思う?」
- (お子さまに主体的な選択の機会を与えることで、「自分で決めた」という感覚が育まれ、自己効力感につながります。親は選択の結果がどうであれ、その決定を尊重する姿勢が大切です。)
なぜ評価ではない対話が自己肯定感を育むのか
評価を手放す対話は、お子さまが「ありのままの自分」を受け入れ、自信を持つための基盤となります。外部からの評価に依存せず、内発的な動機に基づいて行動することで、お子さまは失敗を恐れずに新しいことに挑戦する勇気を持ち、困難に直面しても粘り強く乗り越える力を育んでいきます。
このような対話を通じて、親はお子さまを一人の人間として尊重し、無条件の愛情を伝えていることになります。それは「あなたが何ができるか」ではなく、「あなたという存在そのもの」を大切にしているというメッセージとなり、親子の間に深い信頼関係を築くことにつながるでしょう。
結び
お子さまとの対話において「評価を手放す」ことは、簡単なことではないかもしれません。長年の習慣や、良い親でありたいという気持ちから、つい「褒める」言葉が出てしまうこともあるでしょう。しかし、完璧を目指す必要はありません。
大切なのは、今日から少しずつ意識を変え、お子さまの内面やプロセスに目を向け、共感的な言葉を選ぶことです。日々の対話の中で、お子さまが自分自身を肯定し、自信を持って未来へと歩んでいけるよう、私たち親ができるサポートの形を、ぜひ「自分たちらしい」方法で見つけていってください。この小さな一歩が、お子さまの、そしてご家族の「対話で育む未来」を豊かにすることでしょう。